
静かな退職、という言葉を知っていますか?
静かな退職とは、本当に退職するわけではなく、退職しているような気持ちで出世や昇進を望まず、必要最低限の仕事をしながら在職し続けることです。
静かな退職という言葉や考え方は、アメリカのSNSでのブームをきっかけに、日本でも徐々に浸透しつつあります。
本コラムでは、静かな退職とは何か、日本で増えている原因、企業や組織でのデメリット、対処法などを解説します。
【 目 次 】
世界的に増えている静かな退職のやり方とは
静かな退職は「クビ」や「サイレント退職」とどう違う?
静かな退職の見分け方
20代30代の若手に多い原因
40代50代の中堅社員でも静かな退職が増えている?
静かな退職のメリットとは
生産性の低下
チームワークの悪化やモチベーションの低下
人材の流出
従業員のモチベーションを高める
定期的なコミュニケーションとフィードバックの重要性
マネジメントの役割
静かな退職とは?

静かな退職とは、在職しながら出世や昇進を望まず必要最低限の仕事だけをすることです。
元々、アメリカのSNS動画投稿から広まった言葉ですが、日本でも共感する人が増えており、次第に定着しつつあります。
まずは静かな退職の言葉の意味や広まった背景などについて解説します。
世界的に増えている静かな退職のやり方とは
静かな退職とは、仕事への熱意をもたないまま仕事を続けるやり方をいいます。
静かな退職という言葉は、英語の「Quiet Quitting」を和訳したものです。2020年にアメリカの20代エンジニアがTikTokに「Quiet Quitting」の考え方を推奨する動画をあげ、それが一気に広まってブームとなりました。※
アメリカ最大規模の世論調査会社であるギャラップ社の2022年の調査によると、静かな退職の割合は「米国の労働力の少なくとも50%、おそらくそれ以上を占めている」と衝撃的な数値が出ています。※※
同じギャラップ社の『2023年世界の職場の現状レポート』では、世界の労働力の59%が静かな退職者であると報告されており、仕事への不満やエンゲージメントの低下は、アメリカだけでなく世界的な問題になっているようです。
静かな退職は「クビ」や「サイレント退職」とどう違う?
静かな退職は、退職という言葉を使っていますが実際に退職するわけではなく、最低限の仕事をしながら職場に在籍し続ける状態です。
積極的に仕事はしませんが、無断欠勤したり仕事を放棄したりしている状態ではないため、雇う側も解雇はできません。
また、日本では事前に相談や前触れもなく突然黙って退職してしまうことを「サイレント退職」と呼ぶことがありますが、静かな退職は在籍し続けることが前提となるところに違いがあります。
静かな退職の見分け方
静かな退職は、表面上は淡々と仕事をこなしているだけであり、外から見分けるのは難しい場合があります。
明らかに仕事のパフォーマンスが落ちていたり、勤務態度に悪かったりすれば問題になりますが、必要最低限の仕事をこなしている状態であれば、周囲がとやかく言うことはできないでしょう。
後述するように、日本でも自身が静かな退職であると自覚している人の割合は高く、職場の人間がはっきりと見分けるのは難しいといえます。
静かな退職が日本で増えている原因

静かな退職の増加は、アメリカだけの現象ではありません。
アクシス株式会社が2024年7月に行ったアンケート調査によると、日本国内の就業経験がある10~60代の男女300人のうち「自身が静かな退職をしている」と感じている人は6割にのぼっています。※
ここでは、20代30代の若手社員から40代以降の中堅・マネジメント層まで、日本において静かな退職が増えている原因について解説します。
20代30代の若手に多い原因
静かな退職が20代30代の若手に多く見られる理由の一つは、働き方に対する価値観の変化です。
特にミレニアル世代やZ世代は、従来の「仕事中心の人生」から、「ワークライフバランスを重視する」価値観へとシフトしており、仕事よりも自分の時間やプライベートの充実を優先する傾向にあります。
そのため、必要最低限の業務のみをこなし、余計な負担を避ける働き方を選択する人が増えています。
さらに、昇進やキャリアアップに対する関心の低下も関係しています。以前は「長く働いて昇進すること」が一般的なキャリアパスでしたが、現在では管理職の責任の重さやストレスを避けるため、あえて出世を望まない人が増えているのです。
その結果、企業側の期待と従業員の意識にギャップが生じ、静かな退職という形で表れていると考えられます。
40代50代の中堅社員でも静かな退職が増えている?
アメリカのギャラップ社のリサーチでは、静かな退職を選ぶ人の割合は、35歳未満の労働者の間で特に高かったようですが、実は日本では40代・50代のミドルシニア層でも静かな退職が増えているといわれています。
マイナビキャリアリサーチでは、日本で「静かな退職」状態になっているのは40代・50代が多いという調査結果をまとめているのです。※
前出のアクシス株式会社の調査でも、Z世代だけでなく全ての世代において「最低限の範囲で仕事をする」といった価値観を持つ人が増えており、「Z世代特徴の“頑張らない働き方”がZ世代以外にも浸透してきている可能性がある」との見解を示しています。
静かな退職のメリットとは
20代・30代だけでなく、40代・50代にも広がっているといわれる静かな退職ですが、そのメリットとは何でしょうか。
静かな退職を選択するメリットとしては、職場のストレスやプレッシャーから解放され、メンタルヘルスの悪化を防げることが挙げられます。
また、業務への積極的な関与を控えることで、残業を減らし、プライベートの時間を確保しやすくなる点もメリットです。趣味や家族との時間を充実させ、ワークライフバランスを重視したい人が、静かな退職という働き方を選択していると考えられます。
また、静かな退職を選ぶことで、新たなチャレンジやリスクを避けられ、決められた業務を安定して遂行できる場合もあるでしょう。
静かな退職は何が悪いのか?デメリットと影響

「静かな退職」は、個人にとってはストレスを軽減し、ワークライフバランスを向上させるメリットがあります。しかし、仕事を通じた自己実現や成長の機会が失われてしまう、職場の人間関係を悪化させるリスクがあるなど、デメリットもありますので注意が必要です。
さらに、企業や職場全体にとっては、業務の効率低下やチームの士気の低下といったデメリットが発生する可能性があります。
ここでは、「静かな退職」が企業や組織に与える悪影響について解説します。
生産性の低下
静かな退職をする従業員は、最低限の業務のみをこなすため、新たな挑戦や主体的な取り組みが減少します。企業の成長には、新しいアイデアの創出や効率化への努力が不可欠ですが、静かな退職が増えると、これらの要素が失われ、組織の生産性が低下してしまいます。
積極的な意見やアイデアの提供が減少することで、新しい取り組みが進みにくくなり、組織全体の成長が妨げられるおそれもあるでしょう。
チームワークの悪化やモチベーションの低下
チームでの協力が求められる業務では、静かな退職を選んだ従業員の存在が周囲の負担を増大させるリスクがあります。本来であればチームで分担するべき業務が特定のメンバーに偏ることで、不満が生まれ、職場の雰囲気が悪化する可能性もあるでしょう。
また、静かな退職を選んだ人が増えると、職場の雰囲気が消極的になり、他のメンバーにも「頑張っても意味がない」といったネガティブな影響を与える可能性があります。これにより、優秀な社員のモチベーションが低下し、パフォーマンスの低下や離職につながることもあります。
人材の流出
静かな退職が蔓延すると、職場環境の活気が失われ、意欲のある従業員がモチベーションを維持できずに転職を考えるケースが増えます。特に、成長意欲の高い社員は、刺激の少ない環境に対して魅力を感じにくく、結果的に企業の競争力低下につながる可能性があります。
静かな退職を防ぐための対策

静かな退職の増加は、職場のモチベーションや生産性に悪影響を及ぼします。
ここでは、静かな退職を防ぐために企業側ができる対策について解説します。
従業員のモチベーションとエンゲージメントを高める
静かな退職を防ぐには、従業員がやりがいを感じられる職場環境をつくることが不可欠です。従業員がモチベーションを感じられエンゲージメントが向上すれば、組織が活性化し、優秀な人材確保にもつながります。
従業員のモチベーション維持・向上のための企業側の取り組みとしては、たとえば以下のようなものが考えられます。
各自の役割や目標を明確にし、意義を伝える
正当に評価されると感じられるような人事評価制度を整える
社内研修や外部研修の機会を増やす
キャリアパスの選択肢を広げ、挑戦できる環境を整える
部署異動の機会を設け、マンネリ化を防ぐ
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業や組織に対して持つ愛着や信頼の度合いのことです。従業員エンゲージメントを高めるには、従業員一人ひとりの価値観やニーズを把握し、対話を重視したコミュニケーションを図ること、従業員の主体性や自主性を尊重することなどが大切です。
エンゲージメントの重要性や、サーベイから具体的な取り組みにつなげる方法などについては、以下のコラムにまとめています。
定期的なコミュニケーションとフィードバックの重要性
静かな退職をする従業員の中には、「上司や会社とコミュニケーションが取れない」「評価やフィードバックが少ない」と感じている人も多くいます。定期的な対話と適切なフィードバックを行うことで、早い段階で従業員の不満を解消することが可能です。
1. 1on1ミーティングの実施
定期的な1on1ミーティングで従業員の不満や希望を把握する仕組みを取り入れましょう。
形式的な評価面談だけでなく、日常的な対話を通じて、悩みや問題をキャッチすることが大切です。フィードバックは建設的に行い、従業員の強みを伸ばせるように意識してください。
効果的な1on1ミーティングのやり方や、適切なフィードバック方法については、コラム記事でも触れていますので参考にしてください。
2. オープンな職場文化の醸成
上司と部下の関係が硬直化すると、従業員が意見を言いづらくなり、不満を抱え込んでしまいます。自由に意見を言える環境を作ることで、早期に問題を察知し、静かな退職を未然に防げるでしょう。
経営層が現場の意見を積極的に聞く機会を設ける、定期的な従業員アンケートを実施するなどして、従業員の意見が聞き入れられやすい雰囲気や組織風土を醸成しましょう。
マネジメントの役割
静かな退職を防ぐために、マネジメントができることは何でしょうか。
最後に、従業員のモチベーションを維持し、静かな退職を防ぐためのマネジメントの役割について解説します。
1. 業務の負担を適正化
業務負担が過剰な場合、従業員は心身の疲労から仕事への意欲を失い、静かな退職を選択する可能性が高まります。そのため、マネジメントには、仕事の進捗管理を適切に行い、必要に応じて業務負荷を分散することやアウトソーシングを活用して負担を軽減するなどの工夫が必要になります。
2. 従業員の適正な評価とフィードバック
マネジメント層が従業員の努力や成果を適切に評価し、正しくフィードバックを行うことは、モチベーション維持に大きく影響します。達成した成果に対して、適切な報酬や評価を与えることはもちろん、人事評価基準について納得いくよう説明を行う、ネガティブなフィードバックだけでなく、ポジティブなフィードバックを心がけるなどを徹底しましょう。
企業における人事評価制度の導入・改正のポイントなどについては以下の記事をご覧ください。
3. 従業員のキャリア支援
マネジメントの役割の一つとして、従業員のキャリア支援も重要です。将来のキャリアに不安を感じると、仕事に対する意欲が低下し、静かな退職につながることがあります。
目先の業務の指示をするだけでなく、部下やメンバーのキャリアプランの相談に乗り、成長できる環境を整える、社内異動や新しい業務への挑戦をサポートすることなども、マネジメントの重要な役割です。
【まとめ】対策としてモチベーション向上の取り組みが必要
静かな退職について、注目されるようになった背景や、日本で幅広い世代に増加している原因などを解説しました。
静かな退職は、20代・30代の若手社員に多いと思われがちですが、実は40代・50代の中堅・ミドルシニア層にも浸透してきているようです。
背景には働き方やワークライフバランスの価値観などが変化してきていることなどがありますが、企業や組織にとっては生産性やモチベーションの低下にもつながり、難しい問題をはらんでいます。
企業側には、価値観や働き方の多様化に対応しつつ、従業員のモチベーションやエンゲージメントを維持・向上させる取り組みがもとめられているのです。
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