社会人になってから学び直しをする人が増えています。
しかし、社会人で働きながら学び直しをする場合には、昼間の大学院や専門学校に通うのは難しいケースが多いかもしれません。
また、学び直しには興味があるが、できれば補助金や奨学金などを利用してできるだけ経済的負担を減らしたいという人もいるでしょう。
本記事では、社会人になってからの学び直しが注目されている背景や、活用できる補助金や支援制度、学び直しにおすすめの大学一覧などを紹介します。
年代別の学び直しのポイントも解説しますので、ぜひ参考にしてください。
【 目 次 】
社会人の学び直しとは?その重要性と背景
社会人が新たなスキルや知識を身につけ、キャリアアップや自己成長を目指す「学び直し」が注目を集めています。
特に終身雇用や年功序列が崩れ始めた現代では、一度の就職で安心できる時代ではなくなり、変化の早いビジネス環境に対応できるスキルの習得が必要です。
学び直しによって、自身の専門知識を深めたり、新しい分野に挑戦したりすることで、時代の変化に対応し、長期的なキャリア形成を考える人が増えています。
学び直しが注目される理由
学び直しが注目される理由には、主に技術革新や働き方の変化が挙げられます。
AIやデジタル化の進展によって、日々新しいスキルが求められるようになり、既存の知識や経験が通用しにくい状況が増えているのです。
また、リモートワークや副業が浸透するなかで、場所や時間にとらわれずに学べる環境が整ってきていることも、学び直しの注目度を高める一因になっているといえるでしょう。
企業も、社員が主体的にスキルをアップデートし続けることで、競争力を維持できると考え、学び直しを積極的に支援し始めています。
このような状況で、国や公的団体も積極的に社会人の学び直し支援をおこなっています。
たとえば、文部科学省では、大学や高等専門学校、専修学校での魅力的なリスキリングプログラムの開発支援を実施。令和2年から4年の間に、大学・高専で200以上のプログラムの開発を支援し、約7,000人が履修しています。
※引用元:文部科学省:学び直しについて【資料】大学等がリカレント教育に取り組む意義と推進に向けた方向性
なぜいま、社会人に学び直しが必要なのか?
現在、社会人に学び直しが求められる背景には、従来の安定した雇用形態が揺らぎ、自己の市場価値を高める必要性が増していることがあります。
特に、変化の激しい現代では、自身の専門分野における知識のアップデートや新たなスキルの習得が求められます。さらに、働き方改革や副業の解禁によって、個人のキャリアの多様性が拡大しており、複数のスキルを持つ「マルチキャリア」を目指す人も増加中です。
このような時代に対応し、柔軟なキャリア構築を可能にするため、社会人の学び直しは欠かせない手段となっています。
社会人の学び直しに活用できる補助金や支援制度
学び直しの必要性が高まるにつれ、国や公共団体などがさまざまな支援制度や補助金制度を導入しています。
ここでは、社会人の学び直しに活用できる補助金や支援制度の一部をご紹介します。
教育訓練給付制度(2024年11月現在)
教育訓練給付金制度は、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了した場合に、その費用の一部を支給する制度です。対象講座は約16,000講座もあるので、さまざまな分野でのリスキリングに活用できます。
教育訓練の種類や専門性によって3種類に分かれ、それぞれ給付率や限度額が異なりますので注意しましょう。
訓練種類 | 対象となる講座 | 受講費用の補助率 |
専門実践教育訓練 | ・業務独占資格などの取得を目標とする講座 (介護福祉士、看護師・准看護師、美容師、社会福祉士、歯科衛生士、保育士、調理師など)・デジタル関係の講座 (・ITSSレベル3以上の情報通信技術関係資格など)・大学院・大学・短期大学・高等専門学校の課程 ((MBA、法科大学院、教職大学院 など)・専門学校の課程 (文部科学大臣認定の職業実践専門課程など) | 80% 年間上限64万円 |
特定一般教育訓練 | ・業務独占資格などの取得を目標とする講座 (介護支援専門員実務研修、大型大型自動車第一種・第二種免許など)・デジタル関係の講座・大学など、専門学校の課程 | 50% 上限25万円 |
一般教育訓練 | ・資格の取得を目標とする講座 (税理士、社会保険労務士、Webクリエイター、CAD利用技術者試験など) ・大学院などの課程 | 20% 上限10万円 |
専門実践教育訓練と特定一般教育訓練については、リスキリング支援センターなどで訓練前キャリアコンサルティングを受け、ハローワークで受給資格確認をおこなう必要があります。
受講開始日時点で在職中で雇用保険に加入していること、または離職してから1年以内であることなどが条件です。支給申請はすべてハローワークでおこないますので、事前にハローワークで支給要件照会の手続きをすると、給付が受けられるかどうかをより詳しく調べられます。
※参考:厚生労働省|教育訓練給付制度
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
厚生労働省の公的職業訓練|ハロートレーニング(2024年11月現在)
ハロートレーニングは厚生労働省が実施する公的職業訓練制度です。キャリアアップや希望する就職を実現するために必要な職業スキルや知識について、原則受講料無料で受講できます。
ハロートレーニングには、大きく分けて、離職者訓練と求職者訓練の2つがあります。
離職者訓練では、主に雇用保険受給者を対象に3か月から2年の職業訓練プログラムを提供しています。一部有料で、在職者や高等学校卒業者を対象とした高度な訓練も実施しているのが特徴です。
求職者支援制度では、雇用保険を受給できない人が、月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講できます。雇用保険の受給が終了してしまった離職者や、フリーランス・自営業者など、在職中であっても収入が一定額以下などの条件を満たせば、制度を利用可能です。
ハロートレーニングの職業訓練プログラムには以下のようなものがあります。
介護系(介護福祉サービス科など)
基礎IT(Excel、MOSなど)
情報系(ソフトウェアプログラマー養成科、テクニカルオペレーションなど)
医療事務系(医療・調剤事務科など)
事務(OA事務、簿記会計、アシスタントワークなど)
建築系(建築設計、機械製図、アーキデザインなど)
工事系(電気工事、自動車整備など)
都道府県ごとの職業訓練学校や民間の教育訓練機関がさまざまなプログラムを提供しています。
※参考:厚生労働省|ハロートレーニング
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/hellotraining_top.html
文部科学省|就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業(2024年11月現在)
文部科学省が実施する社会人向けの学び直し支援事業に「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」があります。
全国の国公私立大学や短大、高専を対象に、社会人の受講生が新たな能力を身につけ、自己のキャリアアップにつなげられるようなプログラムを公募。有識者がプログラムの内容を審査し、企業や地域とも連携しながら、実効的かつ有益なリカレントプログラムの開発を支援する事業です。
社会的関心の高いDX(AI・IoT)や医療・介護、地方創生、女性活躍を中心に、基礎的なものから応用的なものまで全国で22都道府県、63プログラムを採択しています。一部のプログラムでは、厚生労働省の職業訓練受講給付金を受給しながら学習することが可能です。
※参考:文部科学省|就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業
社会人の学び直しにおすすめな大学・大学院プログラム
文部科学省などの推進もあり、近年では多くの大学や大学院がリカレント教育プログラムを提供しています。
ここでは、社会人の学び直しにおすすめな大学・大学院を紹介します。
学び直しに最適な国内のおすすめ大学・大学院
学び直しにおすすめな国内の大学・大学院を紹介します。
東京大学
東京大学は社会人向けのリカレント教育に力を入れています。
東京大学リカレント教育講座ポータルサイトの設置
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム
東京大学エクステンション株式会社
グレーター東大塾
「東京大学リカレント教育講座ポータルサイト」というリカレント教育専門のポータルサイトでは、リカレント講座のほか、一般教養や学位プログラムまで150を超える講座を検索可能です。
また、産学連携の一環として、企業や組織のマネジメントを対象とした少数精鋭向けの「東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」を提供しています。
ほかにも、東京大学100%出資でデータサイエンスなどの講座を提供する「東京大学エクステンション株式会社」や企業と連携して先端・専門性の高い現代社会的テーマを取り上げる生涯学習プログラム「グレーター東大塾」など、独自性の高いリカレント教育推進事業を展開しているのが特徴です。
※東京大学|社会連携
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/society/index.html#category4
早稲田大学
早稲田大学は1882年の創立後まもなく「早稲田大学講義録」を発行し、校外生制度(通信教育)を発足するなど、社会人教育を重視している大学です。
入学センターでは、正規課程を広く社会人にも募集するほか、「早稲田大学まなびのコンパス」という専門ポータルサイトで、ノンディグリーのリカレント教育プログラムの情報を提供しています。早稲田大学のノンディグリープログラムは、下は最低年齢8歳から上は最高年齢96歳まで、年間延べ53,000人が受講する日本最大級の生涯学習プログラムです。
エクステンション・センターでは、早稲田校・中野校のキャンパスにくわえ、オンラインでさまざまな公開講座を実施しています。
また、2017年には主にビジネスパーソン向けの学びと交流の場として「WASEDA NEO」を開設し、最先端のビジネストピックなどを扱ったセミナーや、ビジネススキル習得を目的とした各種プログラムを提供しています。
※参考:早稲田大学 まなびのコンパス|早稲田の生涯教育
https://www.wasecom.jp/about
[公開講座] 早稲田大学エクステンションセンター
https://www.wuext.waseda.jp/
WASEDA NEO 早稲田大学日本橋キャンパス
https://wasedaneo.jp/
東京理科大学
東京理科大学では、2018年から社会人教育センターのもと、実務的で社会人として有用な知識や技術を習得できる東京理科大学オープンカレッジを開設しています。
年間講座数は500以上、年間受講者数約6,000名と、日本の大学がおこなうビジネス講座数としては最大規模のオープンカレッジです。約60社の企業が利用し、大学以外の講師の割合は8割と、実効的な産学提携を実現した実務的かつ有益な学習プログラムになっています。
東京・飯田橋のオープンカレッジ会場を中心とした受講方法にくわえ、Zoomを使用したリアルタイム配信やオンラインと会場型のどちらも選択できるハイブリッド方式など、受講形式のバラエティが豊富なのも魅力です。
※参考:東京理科大学オープンカレッジ
https://web.my-class.jp/manabi-tus/asp-webapp/web/WTopPage.do
小樽商科大学
小樽商科大学では、社会人の学び直しのために多種多様なプログラムを提供しています。
働きながら学ぶ人のための総合的な学習プログラム「夜間主コース」やMBA取得が可能な「アントレプレナーシップ専攻」といった正課教育とは別に、地域や受講者、企業のなニーズに対応した実践的・専門的な社会人の学び直しプログラムがあるのが特徴です。
産学官連携型では、地域経済や雇用創出において大きな役割を担う観光産業を活性化する経営人材育成講座を開設。地域医療やヘルスケアなどのイノベーション創出を牽引できる人材の育成を目的とした「地域医療マネジメントセミナー」を実施しています。
さらに、ニセコ町商工会と連携した「ニセコビジネススクール」や帯広畜産大学と連携した「清水町アグリビジネススクール」など、個別の地域団体や企業のニーズに合わせた研修プログラムを提供しているのも小樽商科大学の社会人学び直し事業の特色です。
※参考:国立大学法人 北海道国立大学機構 小樽商科大学|社会人の学び直し
https://www.otaru-uc.ac.jp/education/recurrent/
関西学院大学
関西学院大学は種類豊富な生涯学習プログラムを提供しているのが特色です。
エクステンションプログラムでは、公務員、IT・情報系、簿記・会計系、金融系、法律系などの分野において、「ライフデザイン」のなかで資格や知識の取得の必要性を感じた人が誰でも利用できるような講座が開講されています。
社会人の女性向けには、女性活躍推進のための学び直しプログラム「ハッピーキャリアプログラム」があります。ハッピーキャリアプログラムは、文部科学省の職業実践力養成プログラムや厚生労働省の教育訓練給付金事業にも認定されており、「キャリアアップ・起業コース」と「女性リーダー育成コース」の2つのコースを選択可能です。
また、通常の科目聴講とは異なり、興味をもった領域に関する授業科目を学部横断的に受講できる「関西学院大学リベラルアーツ・プログラム(KGLP)」も、社会人の学び直しや生涯学習に適したプログラムといえるでしょう。
※参考:関西学院大学 総合政策学部・総合政策研究科|生涯学習プログラム
https://www.kwansei.ac.jp/s_policy/s_policy_m_001413.html
通信講座やオンライン
全国の大学で社会人の学び直しのプログラムが提供されていますが、最近では通信講座やオンラインのプログラムも充実しています。
なかでも、放送大学は1985年の開設当初から、ラジオ・テレビ・CSBSデジタル放送などさまざまなメディアを通じて学習プログラムを提供してきました。2015年からはオンライン授業を開始し、現在3400科目を提供し、日本で唯一放送による4年生学位取得が可能な教育機関となっています。
また、自宅学習で大学の単位が取得できる、いわゆる「通信制大学」も、大学教育に準じた高度な知識やスキルを習得できるため、社会人の学び直しの場として注目を集めています。
社会人の学び直しは大学だけではない
社会人の学び直しができるのは大学や大学院だけではありません。最近では、キャリアスクールやビジネススクールでも社会人の学び直しに役立つ多様な学習プログラムを提供しています。
ビジネススクールというと専門資格や実用的なスキル取得が中心というイメージがありますが、最近ではマネジメントやリーダーシップ、マインドセットなど多種多様な学習内容を提供しているところが増えています。
たとえば、オーセンティックリーダーズ・アカデミア(旧日本女子経営大学院)では、次世代のリーダーに必要な実践的スキルを総合的に学べます。経営戦略・財務会計・マーケティングといったマネジメント知識に加え、VUCAの時代に必要な思考方法やマインドセットまで横断的に学習できるのが特徴です。
【オーセンティックリーダーズ・アカデミア4つの特徴】
ビジネスの最先端で活躍する、多彩な講師陣
越境型ダイバーシティ学習×経験学習
組織・業界を超え、修了後もつながる協創コミュニティ
多彩なロールモデルによるパワーメンターサポート
経験学習やメンターサポートなどが充実したプログラムのオーセンティックリーダーズ・アカデミアでは、次世代リーダーのために必要な経営学を横断的に学べます。
いつでも無料で資料請求可能ですので、興味がある方はぜひお問い合わせください。
学び直しはいつから?学び直しのタイミングと年代
社会人で学び直しといっても、いつから始めればよいのか、年代ごとにどんな学び直しが適切なのか、迷ってしまう人も多いでしょう。
学び直しのタイミングや年代ごとに気をつけるべきポイントなどを解説します。
20代から30代の学び直し
20代から30代での社会人の学び直しは、本業の仕事が忙しく、時間や費用などの面でコストをかけるのが難しいのが特徴です。
20代から30代で学び直しを考えている人は、以下のようなポイントに気をつけるとよいでしょう。
リスキリングや転職を意識して学習内容を選択する
ネットラーニングなどを活用しコストを節約する
20代から30代は、まだまだ本業のキャリアや社会人の経験を積むことを優先すべき年代です。学び直しをしたいのであれば、リスキリングや転職を意識して、受講内容や資格を選ぶとよいでしょう。会計やIT、語学など、現在の仕事を続けながらキャリアアップが可能な分野での学び直しもおすすめです。
また、時間や費用を節約するために、ネットラーニングなどを積極的に活用しましょう。20代・30代は転勤や結婚・出産など、ライフイベントが多い年代でもあるので、場所や時間を選ばずに学習できる方法を選択できると安心です。
40代から50代の学び直し
40代から50代は、特に社会人になってからの学び直しを意識する年代といえるでしょう。40代から50代の学び直しのポイントは以下のとおりです。
マネジメントやリーダーシップを学ぶ必要性
セカンドキャリアを意識
いままでとは違う人脈やネットワークの構築
40代から50代になると、多くの人は管理職やマネジメントを経験します。プレーヤーとしての知識やスキルではなく、マネジメントやリーダーシップについて学び直しすることで、今後のキャリアにプラスになる可能性が高くなります。
また、40代後半から50代になると、セカンドキャリアを意識して学び直しをする人も増えてくるでしょう。
本業のキャリアが長い40代や50代でも、いままでとは違う人脈やネットワークを構築できるのが社会人の学び直しのメリットでもあります。セカンドキャリアや新たなネットワークづくりといった点でも、学び直しの学習内容や学習方法を検討してみるとよいでしょう。
60代でも学び直しはできる?
60代で学び直しは遅すぎるのでは?と思う人もいるかもしれません。
しかし、「人生100年時代」の現代では、60代でも、70代や80代になっても、学び直しに遅すぎるということはありません。
年間延べ53,000人が受講する早稲田大学の生涯学習プログラムの受講者の最高年齢はなんと96歳です。
人生100年時代では、長いセカンドライフを充実したものにするため、生きがいやネットワークづくりなどの目的で学び直しをする人が増えています。
高校や大学の卒業資格を取りたい、長らく憧れだった資格を取得したいなど、時間をかけてでもチャレンジしたいことがある場合は思い切って挑戦してみましょう。
【まとめ】社会人の学び直しはいつから始めても遅くない
社会人の学び直しが注目されている理由、利用できる支援制度や助成金、学び直しにおすすめな大学などについて解説しました。
人生100年時代では、社会人になってからの学び直しが遅すぎるということはありません。グローバル化やデジタルオートメーション化が進み、ビジネス環境の変化スピードがますます加速するなか、学び続け変わり続ける人だけが時代の変化に対応していけます。
30代には30代なりの、50代には50代なりの、学び直しがあるはずです。いつからでも社会人の学び直しは始められます。国や地方公共団体が支援制度を導入し、大学なども生涯教育に力を入れ始めているいまだからこそ、自分なりに学び直しの必要性や方法を考えてみましょう。