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ビジネスとスポーツ5 「外野手の役割とビジネス」

更新日:2023年10月16日


ビジネスとスポーツ「外野手の役割とビジネス」

「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」

上席研究員の松下です。


ある高校野球の選手から興味深い質問をもらいました。


彼は外野手です。「試合中、味方のチームにどんな声かけをすれば、みんなのモチベーションがあがりますか?」というのが彼の質問でした。よくある、初歩的な質問のように聞こえるのですが、このような質問こそが、コーチングでは要注意なのです。


 

【 目 次 】

 

外野手の置かれた孤独な環境


よく話を聴くと、彼の問題意識は声かけではなく、外野手の置かれた孤独な環境でした。


野球で、外野手は1番後方を守っています。見えるのは味方の背中だけです。捕手は味方全員を見渡せるポジションにいますし、内野手や投手は、背後にも味方がいます。


しかも、お互いは近距離で守っていますので、声を掛け合いやすいことに対して、外野手の後ろは観客だけです。


おまけに外野手同士は、内野手に比べて、遠く離れたポジションにいますので、声をかけづらい環境にいます。外野手は内野手や投手の背中に向かって声をかけることになりますが、声をかける相手の表情は見えないので、反応が分かりません。


反応のわからない相手に声をかけ続けるのは、一種の苦行にほかなりません。選手の問題意識は、「声をかけたくても、声をかけられづらい自分達の状態を理解してほしい」というものでした。



日本企業における外野手である海外駐在員


日本企業における外野手である海外駐在員


企業においても、野球の外野手のような状況に置かれている人たちがいます。代表例は、海外の駐在者です。バブル崩壊後、日本企業の多くは海外拠点を閉鎖したり、縮小したりしました。そのため、海外の拠点で働く日本人は減り、複数の駐在者がいても、それぞれ違った仕事をしていますので、仕事上の横のつながりは希薄です。


日本本社が決定権を握っていることが多いため、現地の駐在者は日本時間で、本社とやりとりしなければなりません。昼夜が逆転する北米やヨーロッパ駐在の人たちは、会議が真夜中になることが多く、睡眠時間を削らなければなりません。日本本社の関係者が駐在者の実情を理解していないと、駐在者は野球の外野手のように、孤独感を感じることになります。


野球の外野手と海外駐在者との、もう一つの共通点は、自分の役割を正しく把握する必要があることです。高校野球はプロ野球と違って、打撃、守備、走塁の三拍子揃った選手は少ないです。外野手の多くは、守備や走塁はイマイチだけど、打撃が良いという選手が選ばれる傾向があります。


したがって、外野手は、自分達の役割は長打で相手チームを撃破することだと考えて、打撃練習に注力し、守備練習は疎かになりがちです。これが大きな間違いです。私はおそらく日本でも最も多くの敗戦を経験したメンタルコーチと思っていますが、野球で流れを変えるのが、外野手の守備です。



外野手の失敗が大量失点に


シングルヒットを後ろにそらせば、二塁打、三塁打になり、ランナーが塁上にいれば、確実に相手チームには点が入ります。外野手のエラーがきっかけで大量の得点を奪われて負けたゲームを何度も経験しています。


そうなれば、相手チームの気持ちは盛り上がり、味方チームは落ち込みます。それとは逆に外野手がファインプレーをして、ヒット性の当たりをアウトにしたり、長打になる当たりをキャッチすれば、味方チームは盛り上がり、相手チームは流れが悪いと思い、意気が下がります。


つまり外野手の守備はゲームの流れに大きく作用しますので、守備練習は重要です。


同様に海外駐在をする人の役割は重要です。最近、海外の企業を買収したのは良いが、その企業がとんでもない不良資産で、多額の赤字を計上した事例がマスメディアを通して報じられます。その失敗の原因の一つに現地での情報収集が不十分だったことが考えられます。現地の情報収集をするのは、現地の駐在者の役割ですから、買収失敗は、外野手のエラーが大量失点に繋がる失敗と同じ失敗の構造をしています。


買収に成功した人に共通する要因の一つが、現地の人たちとの付き合いを大事にして、現地環境に溶け込んだことです。せっかく海外に赴任したのに、職場では日本人と付き合い、日本人の多く住む地域で暮らし、ゴルフをするにも日本人同士では、生きた情報を収集できません。


それでは、外野手が守備練習に力を入れないのと同じです。ある洋酒メーカーがフランスのワイナリーを買収しました。そこに長年駐在した日本人社員は、完全に現地に溶け込み、一見するとフランス人みたいになったという伝説を残していました。もちろんこのワイナリーは大成功を収めています。



 

▼この記事を書いた人

​松下信武(まつした のぶたけ)

「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」上席研究員。


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